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道草雑記帖

「神楽坂 暮らす。」店主の備忘録/日々のこと/器のこと

新宿そだち

雑記

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今月は新宿伊勢丹での2週間にわたる展示が入っていたため、毎日新宿に『出勤する』羽目に。
『【朝】新宿→【昼】神楽坂→【夜】新宿』という生活のルーティンは、若い頃うろついていた懐かしい新宿という街に今一度寄り添う機会を与えてくれました。期せずして。
新しい建物は増えたけれど、よく見てみれば変わっていないものもけっこうあるんですよね。30年前に初めて遭遇したタイガーマスク(新聞配達員の名物オジサン)を久々に見かけることができたのもうれしかったな。

そんな2週間の中でお世話になった(?)のが、駅ビル・ルミネエストの地下(東口改札のすぐ横)にあるカフェ&バー『ベルク』。昼はカフェ、夜はギュウギュウ詰めのスタンディングバーになるお店で、ここには3日に一回くらい行ってましたね。帰りがけにちょっとだけ小腹を満たしたい(&一杯ひっかけたい)時に利用。キャッシュオンデリバリーなので、帰りたいときにさっと帰れるし、本当に便利なのです。早い、安い、美味い、三拍子揃っていて、このお店が繁盛している理由がよくわかります。
今年25周年を迎えたというこのベルク、平成になってからオープンしたにも関わらず、昭和的な空気を濃厚にまとっているのがなんとも不思議。老若男女、さまざまな人が集うカオスな空間は、まさに昭和の新宿の風景です。両脇に肌が触れるくらいの距離で見知らぬ人が呑んでいても、ここではそんなに気にならないし、寛容で大らかな気分になれる。そして、そういう大らかさとともにほんの少しだけ湿り気のようなものが宿っているところも、なんだかとてもいい。どんなに混んでいても、殺伐としているわけじゃなく、懐かしく心地よい賑わいなのです。

ベルクが入っている駅ビルは、今でこそルミネエストというしゃれた名称になってるけれど、ちょっと前まではマイシティーという名のテナントビル。高校の頃から暇つぶしに使っていたのでよーく知ってますが、日本一のターミナルである新宿駅の駅ビルとは思えないようなサブカル臭漂う非オシャレ系ビルだった。
ずいぶん前にみうらじゅんが語っていたけれど、朝から晩までここに入り浸っていたため、閉店時に流れる『マイシティーの唄』をフルコーラスで歌えるようになってしまったんだって(笑)。わかるわかる。そう、みうらじゅんみたいなサブカル人種がうろうろしているようなビルだったんですよ。テナントも玉石混交で、コンセプトなんてものは一切なし。地下にあった食品売場の闇市的なごった煮感も強烈だったしね。
とにもかくにも、『ルミネエスト』という名でリニューアルされて非オシャレ系ショップが放逐され、サブカル臭はすべて消えてしまったかに思われたけれど‥‥‥、地下のエアポケットにあるベルクは、紆余曲折あってなんとか生き延びた。しぶといね。そして、すばらしいね。

今どきの人たちって、あらゆることに対して『目的』を探したり『コンセプト』を求めていたりして、とても意識が高いでしょう?
でも僕は逆に、サブカル的な視点、『目的のない文化』=『コンセプトを持たない文化』がとても好き。それらは意識が高い方々にとっては無駄でナンセンスなものかもしれないけれど、そういう偉大なる無駄が存在し得る寛容な社会こそが、真に豊かな社会だと言えるんじゃないでしょうか。
このお題を突き詰めてゆくと面倒なことになりそうなので、ここいらで止めておきますけどね。とにかくそういうモノが膨大に蓄積しているのが新宿という街なのではないか、と勝手に思ってみたりするわけです。
しょんべん横丁、ゴールデン街、どん底、末廣亭紀伊国屋、高野、中村屋。上で書いたベルクは25年にして、不思議とこの街の名所名店に並び得る『新宿的なるもの』を手にしているように思えますね。文化のような何かを。

この街の魅力に憑かれていた自分自身の若き日のことを思い出そうとすると、あの頃の心の様まで一緒に甦ってきます。
夢もなくただうろうろと何の目的もなくこの街を漂ってたのが、四半世紀ほど前の僕。かと言って、決して仙人のように無欲で飄々としていたわけではなく、行く宛てのないどろどろとした熱情と焦燥感をずっしりと抱えて漂っていたんですけどね。いまどきの言葉を借りれば、『こじらせ系』ってやつか。イタイ青年だったのは紛れもない事実です。
それでも、そんな厄介な若僧に居場所を与えて受け容れてくれた新宿という街は、本当に懐が深い。母なる海のような存在だなあと思います。そのおかげで、こうやってこれまで生きてこられたわけですからね。そう考えると、なんだか感慨深いものがあります。
ここ数年、もはや新宿の旺盛なパワーにはついてゆけなくなってしまったなあ、僕もついに力尽きたか、などと思っていたのだけれど、はからずも新宿に出勤する機会をもらえて、本当によかったと思う。
おかげで、心の奥に眠っていた自分の中の『新宿的なるもの』が、ゆっくりと目覚めてきたような気がします。
この年になってもまだはっきりとした目的地は決めていないけれど、もっと遠くに行けそうな気がして、ちょっと楽しくなってきました。

アリガトウ、新宿。
アイ、ラブ、ベルク。


「神楽坂 暮らす。」オフィシャルページ http://www.room-j.jp

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