道草雑記帖

「神楽坂 暮らす。」店主の備忘録/日々のこと/器のこと

彦山 2013年初夏

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年を取ったせいか、最近はわいわいうるさい地上波のTV番組を見ることがめっきり減り、BSの番組を見る時間が増えました。この間もザッピングしていたら、BS朝日の『鉄道・絶景の旅』の再放送にたどりつき、見たことがある風景が出てきたので、懐かしくなってそのまま視聴。九州北部の筑豊地方と日田を結ぶ路線・日田彦山線の回でした。
民藝陶器の里・小石原まで行く際に二度ほど乗ったことがあるけれど、この日田彦山線は、九州北部の山並みや土地柄をゆったりと楽しめて『乗り鉄』的な興味を満たしてくれる路線です。


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路線の名称にもなっている彦山駅の待合室。無人駅ならではのがらんとした空間がたまらないね。


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ローカル線のちいさな駅なのに駅舎がこんなに立派なのは、ここが近くにある修験道の一大霊場英彦山神宮の玄関口にあたるから。筑豊の炭鉱が元気だった時代には、この駅も参詣者で賑わっていたのかなあ。この駅舎自体、神宮の社殿を模したものらしいし。赤いトタン屋根って、なんだか郷愁をそそりますよね。
九州というのは独特な雰囲気を持った場所で、空気が肌にまとわりついて来るような感覚があります(九州出身者に言わせると『空気がとろっとしている』とのこと)。山と緑に囲まれた温暖な地ゆえか、命の営みを包み込む無尽蔵な大らかさを持っているんですよね。遮るもののない吹きさらしの関東平野と違い、羊水の中にいるような不思議な安堵感を感じることさえあります。

この三枚の写真は二年前に撮ったもの。番組を見た後、未だ整理していなかった画像をひっぱり出してきたのですが、見直すうちに、また旅に出たくなってきてしまいました。
鉄道の旅だからこそ感じられる『旅情』というのは、格別なもの。目的地に着くことより、むしろ、列車と言う匣の中に納まってただ運ばれている(=身を委ねるしかない状態)ときの感覚がたまらないんですよね。過ぎ行く景色の中、自分という存在の心もとなさを知ってしまうことこそが『旅情』なる感覚の核心なのかもしれません。
モータリゼーションは、自分の意思でどこでも好きなところへ行けるという自由と便利さをもたらしてくれたけれど、その反面、ローカル線の不自由さや不便さが心にもたらしてくれる恩恵というのも侮れないのではないでしょうか。


神楽坂 暮らす。 オフィシャルページ http://www.room-j.jp