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道草雑記帖

「神楽坂 暮らす。」店主の備忘録/日々のこと/器のこと

心の青空

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四半世紀に渡る友人、画家のタチアキヒロさんのことは、昨夏のブログで紹介したことがあります。
『四半世紀に渡る』とは言っても、いつもべったり仲良しというわけではなく、つかずはなれず、それでも折に触れて互いの近況を知らせ合う間柄です。

そんなタチさんから、先月、手紙をいただきました。
それは、絵筆による表現に加えて数年前から始めた身体表現 ―その新作舞台『クロッカスの岬』の案内状でした。

公演は三日間。僕は中日に見に行ってきました。
今井千恵子さん振付指導による現代舞踊がベースになった無言の一人芝居。これまでの公演も数回見に行っていますが、今回の新作は、段違いに素晴らしかったと思います。
舞踊を習い始めて日が浅かったこれまでの公演では、作品における「舞踊」と「物語」の重要度の割合が「2:1」だったような気がするけれど、今回は、その割合が逆転したように見受けられました。舞踊というある種の所作が体の中に叩き込まれていくことで、その分余裕ができて、物語性を追究する方により重きが置けるようになったのではないかと思いました。生意気な言い方で恐縮ですが。

人生で起こったさまざまな出来事についての追憶の物語。
一時間という時間の中で、楽しいことだけではなく、すべての人に等しく訪れる「死」を含めたあらゆることが紡がれてゆきます。そして最後は、喪失感を経てすべてを悟ったかのような、もしくは、台風一過のすこーんと抜ける青空を見上げたかのような、そんな不思議な気分にさせてくれる舞台でした。いい意味で、心が空っぽになる。
人は愛によって生かされ育てられるけれど、その愛によってやがては孤独を知ることになる。でも自分の内なるものときちんと向き合えば、それは決して怖いものではないと悟ることができるのですよね。今回の舞台からはそんな真実を改めて思い知らされたような気がしました。
生きてゆくことは、怖いけれど、怖くない。簡単に言ってしまえば、そんな感じかな。

それにしても、今回のタチさんの舞台は、魂の深いところにあるものをぐっと鷲掴みにするような、神がかり的な力を持っていました。
彫金作家のSさんと一緒に見ていたのだけれど、Sさんは目を真っ赤にしていたしね。翌日の公演を見た帰りにうちの店に寄ってくれたお客様のOさんも泣いてたし。僕も、一人で見に行っていたらおそらく涙腺が崩壊していたでしょうね。あの日は何とか持ちこたえたけど。
『クロッカスの岬』は、タチさんのターニングポイントになる特別な作品だと思うけれど、これからもあらゆる表現手段を使って、これを超える作品を作っていってほしいと思います。


神楽坂 暮らす。 オフィシャルページ http://www.room-j.jp

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