道草雑記帖

「神楽坂 暮らす。」店主の備忘録/日々のこと/器のこと

力強い美

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昨年夏の九州北部豪雨で、福岡の山間部にある陶郷・小石原が大水害に襲われたことについては、このブログで前に書きました。
お付き合いのある鶴見窯では、このときに起こった落雷で大事な窯が損壊してしまったのですが、その後急ピッチで復旧が進み、このたび、災害前にオーダーしていた器たちが無事やってきました。窯主・和田義弘さんの、事ここに至るまでの強い意志には、本当に頭が下がります。

小石原焼の伝統は、独特の削り紋様を施す「飛びかんな」と呼ばれる加飾技法で、白と黒褐色のモダンな仕上がりが本来の特徴。
まだ若い和田さんは、その伝統に加え、様々な意匠を施したり釉色を工夫することで、現代的な小石原焼のありようを模索している作り手です。
今回届いた器たちは、飛びかんな技法を踏襲しつつも、伝統色ではない深い青に発色させています。鶴見窯の展示場の片隅に置かれていた器の色目に惹かれてしまった僕が、ここ数年、別注品としてお願いしているもので、これまでもすり鉢や壺をこの色で制作してもらってきました。
僕は、和田さんの飛びかんなが持つ力強さがとても気に入っているのですが、この色にすることで、その力強さが深い色合いの中に溶け込み、現代的なバランス感覚を生み出すように感じられるのです。

この青をうまく発色させるのはそう簡単なことではない、と聞いています。
今回は、災害後に新造の窯を導入したばかり。窯にはそれぞれクセがあるので、それを替えてしまうと前の通りに焼成することが難しくなるのは必定です。そういった事情を鑑みれば、今回は青ではなく、もっと安定的かつ確実に焼き上がる白や褐色に色を替えてリスクを避けた方が無難だったかもしれません。それでもわがままを通させてもらい、あえて災害前に決めた色にこだわりました。
結果的に、和田さんにとってはかなり面倒をかけることになってしまい、申し訳ない気持ちでいっぱいです。でも、上がってきた器の美しさに触れてみると、やはりこれでよかったのだ、と思えてきます。

力強さと美しさを兼ね備えた現代の民藝。
今日からはじまった展示「あたたかな青」では、鶴見窯のお皿、ふたもの、すり鉢を手に取っていただくことができます。みなさんにも、この器たちがやってきた道のりについて、ほんの少しだけ思いを馳せてもらえたらうれしいです。


神楽坂 暮らす。(コハルアン) オフィシャルページ http://www.room-j.jp
あたたかな青 2/3-18 http://www.room-j.jp/gallery/2018/01/23-1.php