道草雑記帖

「神楽坂 暮らす。」店主の備忘録/日々のこと/器のこと

ロマンティック

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もう4ヶ月も前のことになりますが、大好きな大貫妙子さんの新しいアルバム『Tint』が発売されました。
前作『UTAU』は坂本龍一さんとのコラボレーションでストイックなイメージだったけれど、今回はバンドネオン奏者・小松亮太さんとのコラボレーションということで、とてもロマンティック。大貫さんならではの磨き抜かれたクールな美意識と小松さんらしいタンゴ的なパッションとの混ざり具合が絶妙なアルバムです。
様々な名盤を聴いてきたうるさ型の大人たちをもうならせる素晴らしい出来。あまりに素敵なので、ワタクシ、6月以来ずっと聴き続けております。

そんな大貫さん&小松さんコンビは現在アルバム発売を記念するコンサートツアーを続けていて、昨晩は東京公演。1日のみの特別なステージなのでこれは絶対に見逃せないと思い、お店を少しだけ早じまいして(ゴメンナサイ)、いそいそとBunkamuraオーチャードホールまで出かけてきました。
小松さんを中心とするクインテットにボーカルの大貫さんが乗る形の編成。比較的シンプルなアンサンブルであるにも関わらず、奏でられる音楽はものすごくゴージャス。オーチャードホールのすばらしい音響空間の中で、束の間の贅沢を味わうことができました。
小松さんの生演奏を聴くのははじめてだったのですが、郷愁を誘うバンドネオンの音色にすっかり魅せられてしまいましたね。心の奥に眠っている何物かを激しく掻き立てるような音で、さすがラテンの血を騒がせる楽器だと思いました。
そして、大貫さんは本当に素敵なシンガー。澄んだつややかな歌声、上品でかわいらしいたたずまい、長く音楽活動をしている大貫さんだけれど、僕は今の彼女の音楽がいちばん好きだな。
『愛しきあなたへ』という曲(ラジオ深夜便のテーマ曲、名作です)を歌う際、『ラジオ深夜便=主に高齢者が聴取』という絡みのトークの中で、『人は年を取ると、若い頃よりロマンティックになるものなのよ』と言っていたけれど、それは真を突いているかも。そして、無駄なものをそぎ落としたミニマムな中にロマンティックな世界を表現できる大貫さんというのは、やはり稀有なる音楽家です。
本当にすてきなステージでしたよ。

先月誕生日を迎え、アラフィフという未知の領域に足を踏み入れた僕も、徐々にロマンティックおじさんになってきております。


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