道草雑記帖

「神楽坂 暮らす。」店主の備忘録/日々のこと/器のこと

ドキュメント72時間

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”ひとつの場所に3日間。72時間ずっといたら、どんなことに出会えるだろう?人々が行き交う街角の片隅にカメラをすえて定点観測し、3日間の偶然の出会いを記録する「ドキュメント72時間」。同じ時代、同じ空の下に、たまたま居あわせた私たち。みんな、どんな事情を抱え、どこへ行くの?それぞれの人生を懸命に生きている現実と予想もしないドラマ。想像をはるかに超える、多様で生き生きとした、人々の「いま」が見えてくる。”

上の一文は、僕が大好きな『ドキュメント72時間』(NHK総合・毎週金曜22:55-23:20)という番組の公式サイトから転載した紹介文。
毎回、市井に生きる人たちの止まり木となるような場所(ひとクセある)を定点観測するのがたまらないこの番組。ふだん部外者の目には触れない場所に集う人々の日常のひとコマを覗き見させてもらうような感覚で見ています。
カメラは、浅草観音裏にある喫茶店、企業城下町・日立にあるバラックの飲み屋街、鴬谷のダンスホール、朝までやってる新宿二丁目の定食屋などのディープなスポットにやって来る人々を淡々と撮り続ける。また、駄菓子屋に密着するのどかな回もあったりする。そう言えば、広島の有名なホームレスを3日間探しまわったこともあったなあ。結局その人を見つけることはできなかったのだけれど。

一昨日は、早朝から深夜まで営業している竹の塚のフィリピンパブに密着していました。
タクシー運転手、年金生活の人、シングルマザー、仕事上がりのキャバクラ嬢一行、そのほかにもいろいろな人たちが来店。早朝は定食も出しているので、それを楽しみにしてくる人もいたりして、昼夜問わず、悲喜こもごもの人生がこの場所で交錯します。フィリピン人のホステスたちの明るさはオアシスの水のような存在で、ここに集う人たちは、ひとときの潤いを求めて集まってくる沙漠の旅人のような存在なのでした。
このパブのことを注釈抜きで『健康的』だと断言するのはちょっと乱暴かもしれないけれど、少なくとも僕の目には、現在の日本社会の位相の歪みにくらべたら格段に『健康的』な場所に見えました。
『目に触れない』ということと『存在しない』ということが同義語ではないことを、この番組は教えてくれます。僕の目に触れるものなんてこの世のほんの一部分でしかなくて、本当は、この世のそこここにさまざまな人びとの生々しい命がうごめいている。そして自分自身も、そういう雑多な命のひとつだということを知ると、他者に対してもっと寛容になれるような気がします。
『正しいか間違っているか』とか『美しいか醜いか』とかの二択で済まされるような単純な話ではなく、思っているより人間の人生は多様なのだ、と考えさせてくれる秀逸なドキュメントでした。
火曜の深夜に再放送もしているようなので、機会がありましたら、ぜひ。


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