道草雑記帖

「神楽坂 暮らす。」店主の備忘録/日々のこと/器のこと

竹を編む

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もう三年くらい前になるけれど、三浦しをんさん原作の「舟を編む」という映画を見ました。
広辞苑的な国語辞書(作中では「大渡海」)の編纂に没頭する若手編集者が、持ち前の粘り強さでそれを完成させるまでの物語。膨大な時間と知識が注ぎ込まれる作業を静かな視点で描いた佳作でした。

『編む』という言葉は辞書や出版物を作る時にも使うけれど、本来は工藝に使う言葉。糸へんがついていることからわかるように、複数の繊維素材を互い違いに組み合わせて一つの造形を作り上げる行為を指しています。
現在店内で開催している「ととのえる道具」という企画展では別府の竹細工を紹介していますが、竹も『編む』という行為によって器や道具などに加工される素材。たとえば、陶器の場合は焼成させることで化学反応が起こるし、漆器の場合は乾く過程で酵素による化学反応が起こる。加工前と加工後が別のものになるわけですよね。でも、竹工藝の場合は化学反応の助けをいっさい借りない。『編む』というシンプルな作業の蓄積により、原材料の特性がそのまま生かされた素朴な造形に仕上げられてゆきます。
数年前に別府を訪れたときは、一部実演を交えながら作業工程をレクチャーしてもらい、『編む』という原初的なてわざに触れてきました。竹を編むのも、辞書を編むのと同じく粘り強さを必要とする作業。そこには工藝の原点につながる魅力が詰まっているような気がします。


神楽坂 暮らす。 オフィシャルページ http://www.room-j.jp
ととのえる道具 http://www.room-j.jp/gallery/2016/03/318.php