道草雑記帖

「神楽坂 暮らす。」店主の備忘録/日々のこと/器のこと

蓼の花の湯呑み

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日本全国には、窯元が集中する伝統的な窯業地がたくさんあります。
いまは物流も情報も発達しているので、窯業地でなくても作陶ができるけれど、前近代においては、窯業地という『産地』ができることには必然性がありました。良い土が取れて、窯を築ける地形があり、薪の調達がしやすく、消費地への運搬がスムーズであるという条件を満たした場所でなければ、かつては作陶することができなかったわけです。

歴史や民俗学が好きな僕にとって、窯業地というのは、非常に興味がそそられる場所です。
これまで日本全国の窯業地を廻ってきましたが、四国唯一の窯業地・砥部(愛媛県)にはなかなか行く機会がなく、はじめて訪問したのは3年前。
これと言った商売上のお目当てがあったわけではなく、単に個人的な興味として、窯元の見学をさせていただきました。

『見学』のみで終わったこの時の砥部訪問でしたが、その後しばらくして、愛媛で『ひとり地域調査隊』として活動する今村香織さんから、東京にいるとなかなか見えてこない産地の情報をいただくようになり、いまでは少しずつ砥部の窯元の器を取り扱うようになっています。

現在「神楽坂 暮らす。」では、今村さんが集めてくれた愛媛の器や雑貨を紹介する企画展を開催中。砥部からは、これまで扱ってこなかった窯元の器も入荷しています。
その中で僕が惹かれたのは、呉須(青)と釉裏紅(深紅)の二色の絵具で絵付けを施した、一海窯の湯呑みです。砥部ならではのがっしりとした丈夫な生地。そこに手慣れた筆の運びで描かれた蓼の花が、何とも言えない素朴な雰囲気を湛えています。ぽってりとしていて、手にしっかりとなじむ感じ。民藝的なものづくりの心が宿ったすてきな湯呑みだと思います。


神楽坂 暮らす。 オフィシャルページ http://www.room-j.jp
愛媛村の夏まつり http://www.room-j.jp/gallery/2016/07/729.php