道草雑記帖

「神楽坂 暮らす。」店主の備忘録/日々のこと/器のこと

平成細雪

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世に小説を映像化した作品はいろいろあるけれど、原作を読んでいないにもかかわらず、僕がいたく気に入っているのが、83年に映画化された「細雪」(原作は谷崎潤一郎)。
家業が廃れてしまった大阪船場の裕福な商家・槇岡家の没落を、四姉妹の暮らしと関西の美しい風物を通して描いた作品です。

何度か映像化されているようだけれど、僕が好きな83年版は、市川崑が監督したもの。船場の豪奢な商人文化の残滓や、近代になって阪急沿線に生まれた上流文化(阪神間モダニズム)が絢爛豪華に描かれていて、見るたびにうっとりしてしまいます。
それは、古き良き時代に向けて鳴らす晩鐘のようでもあり、栄華を極めた平家の諸行無常を描いた平家物語のようでもあり。市川崑ならではの映像美の中に見え隠れする甘やかな滅びの美学に、僕は心を奪われてしまったのでした。

その細雪が、NHKBSプレミアムで全四話の連続ドラマとして再映像化。
「平成細雪」というタイトルにして、時代設定をバブル崩壊後に変更。蒔岡家の姉妹を演じるのは、中山美穂高岡早紀伊藤歩中村ゆりの四人。
市川崑版が大好きだったもので、ちょっと軽んじつつ斜に構えながら見始めたわけですが、おっとびっくり、想像以上の面白さ。毎週日曜が来るのが待ち遠しく、全四話があっという間に終わってしまいました。
舞台出身の蓬莱竜太という方(岸田國士戯曲賞受賞者)が脚本を書いているのだけれど、セリフのやりとり、ちょっとした間の取り方、ストーリーの運び方がすごく巧み。映画版とは違うやり方で四姉妹の個性を立体的かつ現代的に組み立て直していました。
それでいながら、そこはかとなく市川崑版へのリスペクトが感じられるところもうれしかった。
腐る直前の果物が絵も言われぬ芳香を放つ、その瞬間を切り取ったような、あでやかな物語だったと思います。現代に蘇った絵巻物のごとく。

映画に続き、ドラマの世界にもどっぷり浸かってしまったので、今度こそ谷崎の原作を読んでみようと思い、いま上巻を読み始めたところです。


神楽坂 暮らす。(コハルアン) オフィシャルページ http://www.room-j.jp