道草雑記帖

「神楽坂 暮らす。」店主の備忘録/日々のこと/器のこと

金工 小さな工藝

f:id:kurasustore:20151108145058j:plain


昨日放送のテレビ東京美の巨人たち』は、幕末~明治期に活躍した伝説の金工家・正阿弥勝義の特集。その技術の極みとも言える『古瓦鳩香炉』を中心に、超絶技巧と称される細かい手わざによって作られた金工作品を紹介していました。
出会った瞬間の驚き、そしてじっくりと愛でる喜び。作品のひとつひとつに、工藝が持つ強い力を感じます。
ただ正阿弥の場合、『金工家』ではあるけれど、『金工作家』ではなかったような気がするのです。彼らの活躍を支えた武家社会の瓦解を眼前にして、生きるために職人としての技をただひたすら究めて登りつめたら、誰も見たことがない『山頂』(=古瓦鳩香炉)にたどり着いてしまった、というのが真相なのではないでしょうか。現代作家のように自ら設定したコンセプトを具現化する、というわけではなく。
彼のどの作品も独創性と躍動感にあふれているけれど、それは現代工藝における『作家性』というものとはまったく異なる制作姿勢の中から生まれ出たものなのだと思いました。

需要の減少に伴って正阿弥のような職人スタイルのものづくりは廃れてしまいましたが、現代の金工作家の作品の中にも超絶技巧的なものへの憧憬を感じることは、たまにあります。
11月20日から展示室では『ちいさなブローチ展』を開催する予定なのですが、今回初めて出品してくれる千場昌克さんの『TOOLS』と名付けられたピンブローチには、それこそ超絶技巧と呼べるような驚きの手わざが惜しみなく注ぎ込まれています。この画像の中でいちばん小さい作品は、真ん中あたりに映っている『水道の蛇口』で、なんと全長1.5㎝!いちばん大きい『スコップ』でも、4.5㎝。『のこぎり』に至っては細かな刃の様子まで再現する凝りようです。
そこには、『なぜ?』とか『どうして?』とかの疑問をはさみこむ余地がない、『持てる技術の粋を注ぎ込んだすごいものを作りたい』と言う工藝の原点のようなものが感じられます。千場さんの作品たちには、上で言ったような“出会った瞬間の驚き”と“じっくりと愛でる喜び”がしっかりと詰まっていると言えるのではないでしょうか。
そのあたりは、実際の展示でご覧いただければ、と思います。


ちいさなブローチ展 紹介ページ http://www.room-j.jp/gallery/2015/11/1120.php